手外科とは

 進化の過程で種としてのヒトの歴史は数百万年と言われています。霊長類の中で、ヒトが他の種と違って現在のように進化したのは、二足歩行を開始したため、前肢(上肢)が移動という機能から解放され、別の目的に使われるようになったからです。
手を使って道具を使い、火を起こし、文明を発展させてきました。かの哲学者、カントは「手は外部に出た脳である」とまで述べています。確かに脳生理学的には大脳皮質に占める手の支配領域は、他の身体分野に比して面積比は非常に大きいのです。これは手がたいへん重要な器官であることを象徴しています。
私達は毎日手を使って生活しています。何気なく使っている手ですが、その機能はとても複雑で、多種の組織が脳によって巧にコントロールされています。ちなみにもし親指の先に棘が刺さっただけで、その痛みで手全体がたいへん使いにくくなることに気づかれるでしょう。

手は毎日使って生活しているため、ケガを受けやすく、また様々な病気や障害により使い勝手が悪くなり、不自由な思いをするものです。そして初めて手の重要性に気がつきます。手の皮膚、爪、腱、神経、骨、関節、靱帯、血管など様々な組織の障害が、重大な機能障害を引き起こします。

 手外科とは手の機能障害を患った患者様を対象とした専門領分野です。主に肘から指先までの疾病を取り扱い、外傷、外傷後遺症、先天異常、変形性関節症などの変性疾患、関節リウマチなどの炎症性疾患、シビレや麻痺を主体とした神経疾患、手の腫瘍、細菌感染症など様々な病態を取り扱います。また失われた手の機能を再建する様々な手術手法で再建手術を行うことも重要な分野です。

 このように手外科とは手の「機能」を取り扱う専門分野であり、外科的手術のみでは不十分で、特殊なリハビリテーションを含めた幅広い診療分野です。

 日本には1957年創設された「日本手外科学会」という専門領域の学会があり、整形外科や形成外科の医師、約3,400名の会員が活躍しています。詳細は「日本手外科学会」のサイトを参照下さい。